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東京都御蔵島における猫の不妊去勢事業

御蔵島と猫の問題

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伊豆諸島の一つ、東京都「御蔵島」

東京から南へ約200キロの太平洋上に浮かぶ周囲16キロの小さな島。人口わずか280人。標高857メートルの山を中心に連なる山々を、最高480メートルにもなる海食崖が囲み、黒潮に浸食され続けてきたその島影は、「お碗を伏せたような」と形容されます。温暖多雨な気候で、伊豆諸島で唯一、水力発電を利用できるほど水が豊富。有史以来火山活動が起こっておらず、島全体がツゲ、クワ、シイノキなどの原生林で覆われています。

御蔵島沿岸は世界有数のバンドウイルカの生息地で、これらの豊かな巨木林が育んだ栄養豊富できれいな水が海に流れ込み、エサとなる魚をたくさん育てるので、イルカが子育てをするのに最適だと言われています。春から秋までは、このバンドウイルカウォッチングで、小さな島は大変多くの観光客で賑わいます。特有の地形と気候の特殊性から、固有の動植物が多く、北方植物の南限、南方植物の北限ともなり、屋久島と並んで学術的にも貴重な動植物の宝庫とされている島なのです。

実は、この御蔵島には多数の野良猫が生息しています。その数、推定300匹。(正確な数は不明)もともと猫は一匹もいない島でしたが、近年、数匹の猫を持ち込んだ人がいたらしく、温暖な気候・外敵がいない・捕食できるエサがある・きれいな飲み水がある等々、島の特徴が猫の繁殖に好都合だったため、野生化し、特にこの数年で猛烈な勢いで増えていきました。それに伴い、島では深刻な問題が生じるようになったのです。
 
最も深刻だったのは、御蔵島に繁殖のため飛来する数百万羽のオオミズナギドリという鳥が、その繁殖期間中、猫たちの格好の“捕食できるエサ”となり、かなりの数が食べられてしまうということです。平成16年のエコツーリズム協定により、猫たちへの視線は年々厳しさを増し、島内には多くの自然保護・研究団体が滞在していることもあり、研究被害も危惧され始めました。また、営巣を終えたオオミズナギドリは、冬になると島を離れますが、次に鳥が島にやってくる春までの間、“エサ”が激減する猫たちは飢えることになります。ふだんは山の中で暮らしている猫たちが、鳥がいなくなる冬の間は人間の住む里(島の中のほんの一角)に下りてきて、飼育されている鶏を襲ったり、干物をねらったりして、一部の島民との間に軋轢が生じていました。
人間の勝手で連れてこられた動物が、野生化して繁殖し、さまざまな問題を引き起こす。マングース、アライグマ、タイワンリス等々、よく見聞きする話ですが、その対策や結末は、餌付け禁止→捕獲→殺処分という、これまた人間側の身勝手な流れをたどることがほとんどです。猫は愛護動物ではありますが、ある広域自治体では、同様に野生化して希少動物を捕食している猫を「ノネコ」と定義して区別をし、殺処分できるという判断を下しています。
オオミズナギドリを捕食している御蔵島の猫たちも、同じ憂き目にあう可能性は大いにありました。

今から約2年前

私はこの御蔵島(東京都御蔵島村)の事務担当者から連絡をいただきました。担当者は、御蔵島の猫たちの置かれている状況に危機感を抱き、これまでにも年間20数匹の猫を捕まえては八丈島の動物病院に船で運び、不妊去勢手術をして、また島に戻すというTNR(Trap-Neuter-Return)活動を、島民有志の協力を得てなさっていました。(御蔵島には動物病院はない)しかし、どんどん増え続ける猫たちにこのペースで手術をしても間に合わない、何とか打開策はないものだろうかと悩み、ARCのホームページを見て連絡をくださったのです。
 
その相談を受けたとき、猫たちの状況に胸を痛めた行政の職員が人知れずこのような活動をしていらっしゃることに驚きと喜びを感じると同時に、私の脳裏にはある獣医師の名前がすぐ浮かびました。神奈川県大和市の山口獣医科病院の院長、山口武雄先生です。特に飼い主のいない犬猫の治療や不妊去勢手術に力を注いでこられた先生で、雲仙普賢岳、阪神大震災での犬猫の救護に従事し、近くはスマトラ沖大地震の際にも、タイのプーケットにて傷ついた犬猫の救護・野良犬の不妊手術・指導に従事されました。また、ブータン王国において現地の獣医師に医療技術・知識を指導する等、その活躍は国際的で、大変フットワークの軽い、行動派の獣医師として、犬猫ボランティアの世界では名高い先生です。私は古くから山口先生を存じていたため、すぐに担当者に山口先生を紹介することにしました。島という特殊な環境下では不妊去勢手術が繁殖抑制に非常に効果的なので、山口先生に御蔵島に来てもらい、出張手術に手慣れた先生が現地でどんどん手術をすれば、かなりの頭数の猫の手術が短期間にでき、爆発的繁殖は食い止められるだろうと思ったからです。
 
私と山口先生は担当者と東京で会い、現地の状況を直接いろいろと伺いました。山口先生には現地手術という線はすぐにご快諾いただけましたが、問題は手術にかかる諸費用の財源です。担当者は、御蔵島の動物被害への対策として、飼い主のいない猫の不妊去勢手術の実施を、行政サービスの先駆的事業の中に盛り込み、上部自治体に対して申請をされましたが、残念なことになかなかその申請は通りませんでした。
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